
その日の仕事帰り、私はいつものように無料の高速区間を流していた。
荷室の荷物はすっかり空っぽになり、軽バンの足取りも軽く、エンジン音も快調そのもの。夕方の少し空いた道を、疲れを癒やすような気持ちで走っていた。
その時だった。座席の下(軽バンのエンジンルーム)から、突然「バチン!!」という、何かが激しく弾け飛ぶような異音が車内に響き渡った。
小石や落下物を踏んだ音ではない。明らかに車自身の、それも極めて重要なパーツが物理的に壊れた強烈な音だった。
点灯し始める警告灯と、出口までのパニック

異音に戸惑いながらアクセルを少し緩めた直後、背筋がスッと凍った。
メーターパネルのバッテリーランプやその他の警告灯が、不気味に赤く点灯し始めたのだ。
「えっ? エンジン止まるのか……!?」
ここはスピードの出ている高速道路の車線上。バックミラーを見ると、大型のトラックを含む後続車が迫っている。もしこのまま走行不能になって道のど真ん中で止まれば、追突されて大事故になりかねない。ハンドルを握る手に嫌な汗が滲む。
幸運だったのは、ほんの数キロ先にインターチェンジの出口が迫っていたことだ。私は惰性と残されたわずかなエンジンの余力を絞り出し、祈るような気持ちで出口へと滑り込み、一般道の安全な広い路肩へとどうにか避難した。
ハザードランプを点け、車を寄せた瞬間、どっと体の力が抜けた。すぐさま保険会社のロードサービスに電話し、レッカーを要請した。
原因は「ファンベルト断裂」。その時、絶対にやってはいけないこと
到着したレッカー隊員に確認してもらうと、原因は一目瞭然だった。「ファンベルトの完全な断裂」。
経年劣化でゴムが硬化し、高速走行の負荷に耐えきれず千切れて飛んでしまったのだ。
ここで、同じように車を仕事道具としている皆さんに、絶対に知っておくべき極めて重要な教訓を共有したい。
それは、「ファンベルトが切れたり、今回のように警告灯が複数点灯した状態で、絶対にエンジンをかけっぱなしにしてはいけない」ということだ。
トラブル直後、路肩でレッカーを待つ時間は長く感じる。夏ならエアコンをつけたくなるし、冬なら暖をとるためにヒーターが欲しい。「アイドリングくらいなら大丈夫だろう」と思ってしまうドライバーは後を絶たない。
しかし、この過信が車を「即死」させる致命的な行為になる。
なぜか。軽バンを含む多くの車では、ファンベルトはオルタネーター(発電機)を回すだけでなく、「エンジンの熱を下げる冷却水を循環させるウォーターポンプ」を回す役割も担っているからだ。
つまり、ベルトが切れた状態でエンジンを回し続けると、冷却水が循環せずに沸騰し、あっという間にオーバーヒートを起こしてしまう。そのまま気づかずにアイドリングを続ければどうなるか。最悪の場合、エンジン内部が焼き付き、載せ替えで数十万円の修理費が飛ぶか、そのまま廃車になるという最悪の結末を迎える。
「バチン」と音がして警告灯が点いたら、安全を確保してすぐにエンジンを切る。これが絶対のルールだ。
車の「悲鳴」に気づけるドライバーになろう

やがて到着した巨大なレッカー車に、持ち上げられるように積まれていく相棒の軽バン。その姿を見るのは、なんだかとても申し訳なく、情けない気持ちになった。オイル交換はマメにやっていたつもりだが、見えにくいゴム部品の点検の甘さが招いた結果だ。
商用車として毎日過酷な環境で働く車たち。彼らは言葉を話せないからこそ、最後に「音」や「切り取られたような振動」、そして「赤い警告灯」という形で、命がけのサインを送ってくる。
もしあなたが運転中に強烈な破断音を聞き、赤い警告灯が光り出すのを見たら。
決してそのまま走り続けようとしたり、レッカー待ちでエンジンをかけたままにしないでほしい。速やかにキーを抜くこと。それが、大切な相棒を守るための、最後の命綱なのだから。



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